高齢者の在宅医療-実践ガイド-

Geriatric Medicine

高齢者の在宅医療
―実践ガイド―

Topics
1. 在宅医療と医療経済

順天堂大学医学部公衆衛生学講座 講師
竹田綜合病院 総合連携本部 副本部長
田城孝雄

  1. 在宅医療の定義

    以前は、在宅医療は例外的な医療であった。昭和23年に制定された医療法は、医療を提供する場所を診療所か病院に限っており、在宅における医療は、往診として突発的な状況における例外的医療であった。

    現在は、医療法は平成4年(1992年)第2次改正により、第一条の二2項に、「医療は,国民自らの健康の保持のための努力を基礎として、病院、診療所、介護老人保健施設その他の医療を提供する施設(以下「医療提供施設」という)、医療を受ける者の居宅等において、医療提供施設の機能に応じ効率的に提供されなければならない。」と規定されており、医療を受ける者の居宅等も,医療を行う場として、法的に認められている。そこで、在宅医療の定義として、「医療を受ける者の居宅等において、提供される医療。」と定義する事が出来る。外来・通院医療、入院医療に次ぐ、「第3の医療」と呼ぶ場合もある。

    診療報酬では、第2章 特掲診察料の中の第2部に、在宅医療の診療報酬が、掲載されている。第2部の、「第1節 在宅患者診療・指導料」には、往診、訪問診療、訪問看護など、医療従事者が訪問して行う医療を評価するものが、「第2節 在宅療養指導管理料」には、在宅自己注射、在宅酸素療法など、患者が自ら行う在宅医療を評価するものが収載されている。

    1-1.在宅患者訪問診察料
    通院困難な在宅患者に対して、患者の同意を得て、計画的な医学管理の下に定期的に訪問して診療を行った場合に算定できる。
    ①通院困難な患者、②患者の同意、③計画的な医学管理、④定期的、⑤訪問して行う医療、の5つの条件を満たす事が、在宅医療の条件と言える。
    1-2.在宅医療で可能な事
    在宅療養指導管理料に収載されている項目を示す。(表1)その中でも、在宅人工呼吸器などの在宅ハイテクケアと言われているものを表2に示す。現在では、手術や放射線治療等を除くと、病院で提供されている医療のほとんどを行う事は可能である。簡単な小手術であれば、在宅でも可能であると言う在宅医療医も居る。ただし、在宅医療は、病院医療と異なり、QOLを追求する医療であり、医療技術が全て出来るからと言って、直ちに実行するものではない。
  2. 在宅医療の現状

    昭和61年(1986年)から、在宅自己注射管理指導や自己腹膜灌流指導管理が医療保険で認められた。昭和63年(1988年)には、前述した在宅患者訪問診療が、在宅患者に計画的に訪問して医学管理を行う診療項目として、新設された。平成2年(1990年)に、在宅人工呼吸指導管理、在宅悪性腫瘍指導管理が、医療保険で認められた。平成4年(1992年)の第2次医療法改正により、在宅医療が法的根拠を持つようになった。

    2-1.訪問診療と往診数
    訪問診療数と往診数の経年的変化を、図1に示す。(藤井博之,和田忠志)日本全体では診療報酬上での往診が減り、訪問診療が増えているが、両者を合わせたものは増えていない。
    2-2.在宅医療の市場
    在宅医療の医療費を、社会医療診療行為別調査等から推計すると、1998年度において、6500億円程度となり、一般診療医療費約23兆5000億円の約2.8%となる。在宅医療のうち、シェアの大きいものは、寝たきり老人訪問診察料、寝たきり老人在宅総合診察料、在宅自己注射指導管理料、在宅酸素療法指導管理料などである。在宅酸素療法指導管理料は、340億円である(1998年度)
    訪問看護には、医療機関による訪問看護(医療費)と、訪問看護ステーションによる訪問看護(療養費)に分ける事が出来るが、前者が274億円であり、後者が812億円である。将来は、訪問看護ステーション5000ヶ所で1000億円の市場と期待されている。
    2-3.在宅医療の現状
    概算で、医療費30兆円、老人デイケア料含む在宅医療費が約1兆円であり、医療費の30分の1ないし40分の1(老人デイケア分を除く)を占めるに過ぎない。結局、在宅医療は、総医療費の数%を占めるに過ぎないのである。
    日本全体では診療報酬上の往診が減り、訪問医療が増えているが、両者を合わせたものは増えていない。従って、「在宅医療」は、決して、充分な量まで増えていないと言える。
  3. 在宅医療のニーズ

    在宅医療の対象疾患・患者として、主なものは①がん、②高齢者(介護保険・老人保健)、③神経難病、④脊髄損傷等整形外科疾患、⑤小児が挙げられる。

  4. 介護保険の現状

    介護保険では、27%の人数の施設サービス利用者が、介護給付費約約5.4兆円(2003年度予算案)の総額の58%を使っている(表4)。

    表4
    在宅 188万人 (73%) 1610億円 (42%)
    施設 70万人 (27%) 2207億円 (58%)

    介護保険において在宅サービスの利用者数を、表5に示す。

    表5
    訪問介護 99万人 401億円
    通所サービス 通所介護 90万人 361億円
    通所リハ 50万人 226億円
    短期入所サービス 50万人 175億円
    訪問看護 34万人 84億円

    介護保険施設別の介護給付費(表6)は、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)が、利用者数38万人であり、平均入所日数は、1445.3日であり、介護給付費は971億円である。介護老人保健施設は、利用者数37万人であり、平均入所日数は、395.4日、介護給付費は742億円である。介護療養型医療施設(介護保険対応療養病床)は、利用者数17万人であり、平均入所日数654.5日であり、介護給付費を494億円使っている。

  5. 在宅医療の今後

    厚生労働省医政局から、2002年8月に、「医療提供体制の改革の基本的方向」が、発表された。その内容を表に示す。そこでは、「地域ニーズを踏まえた機能分化」が、謳われている。そこでは、「1.急性期病床における地域医療連携の強化」と「2.在宅支援機能の強化(入院中心の医療からの転換)」の2つに分けてポイントが書かれている。

    「1.急性期病床における地域医療連携の強化」として、①紹介率・逆紹介率の向上、②適切な退院計画・退院調整の実施が、挙げられている。「2.在宅支援機能の強化(入院中心の医療からの転換)」では、①患者のQOLを重視した医療・介護・福祉サービスの総合的な提供、②入院中心でなく、在宅を中心、③肺炎や骨折、急性増悪などの入院ニーズに対応、④訪問診療、訪問看護、維持期リハなど、在宅生活を支援、が挙げられている。

    急性期病院の機能として、「生命に関る合併症のため24時間の監視が必要な状態の患者に医療を提供する。」という考えが最近提唱されている。その場合、急性期病院の入院期間とは、「致死的合併症の24時間観察の必要期間」であり、24時間の監視の必要が無くなった患者は、急性期病院に入院する必然性を失う事になる。このように急性期病院を中心として、病院の平均在院日数短縮の圧力は強い。

    また介護保険の社会保障審議会介護保険分科会における介護報酬の改訂の議論、および本年4月の介護報酬の改訂においても、在宅介護に重点が置かれている。

    介護保険の新しい考えとして、従来の在宅介護サービス、施設介護サービスだけでなく、要介護者の居宅(自宅)以外で、介護サービスを提供するグループホーム・ケア付き住宅等が、最近急速に充実している。これらの施設は、小規模多機能施設に進化していく。この小規模多機能施設を、介護サービスの第3のカテゴリーと呼ぶ。また外来・入院・在宅(居宅)に次ぐ、第4の医療と呼ぶ事もある。これからは、在宅医療だけではなく、この介護保険第3のカテゴリーである小規模多機能施設で提供される在宅医療サービス、介護サービスが、大きな医療・介護分野なマーケットになる。

    実際、既に、訪問介護や居宅介護支援事業所に大手の会社が参入している。さらにグループホームには、有限会社をはじめ多彩な事業者が参入している。さらに大手の会社として住宅産業だけでなく、日本を代表する自動車産業や家電産業の子会社が、高齢者住宅、高齢者共同住宅、老人ホーム等に参入して、マーケティングしている。大きな需要と利益が見込まれると、さらに本格的に参入してくると考えられる。

  6. 地域社会(Community)の整備・充実

    在宅医療とは、入院医療から継続したCommunity medicine / careであり、Communityの整備および、社会基盤として、①高齢者が過ごしたくなる良質な高齢者住宅(バリアフリー住宅・住み続けたい快適な住宅)、②在宅医療の薬品や介護用品、在宅医療用の医療機器を、日本中に、適正なコストで安定して供給できるロジスティック (Logistics)の体制、③情報・通信技術(IT)の進歩の活用、④高齢者に扱い易い在宅用医療機器を適正な価格または利用料で使用できるようにする事が、必要となってくる。
    この部分は、大きなマーケットであり、民間活力の利用が見込まれる。

文献

林 泰史:在宅医療を支える制度,在宅医療ハンドブック,坪井栄孝監修,田城孝雄編著,6-10,中外医学社,東京,2001

新村和哉:在宅医療に関する保険制度,在宅医療ハンドブック,坪井栄孝監修,田城孝雄編著,11-20,中外医学社,東京,2001


表1 在宅療養指導管理料
  1. 在宅自己注射指導管理料
  2. 在宅自己腹膜灌流指導管理料
  3. 在宅血液透析指導管理料
  4. 在宅酸素療法指導管理料
  5. 在宅中心静脈栄養法指導管理料
  6. 在宅成分栄養経管栄養法指導管理料
  7. 在宅自己導尿指導管理料
  8. 在宅人工呼吸指導管理料
  9. 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料
  10. 在宅悪性腫瘍患者指導管理料
  11. 在宅寝たきり患者処置指導管理料
  12. 在宅自己疼痛管理指導管理料
  13. 在宅肺高血圧症指導管理料
表2 在宅ハイテクケア
  1. 在宅酸素療法
  2. 在宅人工呼吸療法
  3. 在宅自己腹膜灌流
  4. 在宅血液透析
  5. 在宅中心静脈栄養法
  6. 在宅成分栄養経管栄養法
  7. 在宅微量点滴静脈注射
  8. 在宅微量皮下注射
図1 訪問診療と往診(藤井博之,和田忠志)

訪問診療と往診

表3 がん患者の死亡場所
1995年
全がん死亡 26.3万人
施設内 24.3万人(92.8%)
自宅 1.8万人(7.0%)
2000年
全がん死亡 29.5万人
施設内 27.7万人(93.8%)
自宅 1.7万人(6.0%)
表4 介護保険
在宅 188万人 (73%) 1610億円 (42%)
施設 70万人 (27%) 2207億円 (58%)
表5 介護保険(在宅)
訪問介護 99万人 401億円
通所サービス 通所介護 90万人 361億円
通所リハ 50万人 226億円
短期入所サービス 50万人 175億円
訪問看護 34万人 84億円
表6 介護保険(施設)
介護老人福祉施設
利用者数 38万人 要介護度 3.49
入所日数 1445.3日 給付費 971億円
介護老人保健施設
利用者数 37万人 要介護度 3.10
入所日数 395.4日 給付費 742億円
介護療養型医療施設
利用者数 17万人 要介護度 4.01
入所日数 654.5日 給付費 494億円

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