在宅での胃瘻後期合併症への対応

メディカル朝日2005年6月号「Dr平原の在宅医療のつぼ」より一部改変

東京ふれあい医療生活協同組合 梶原診療所
平原佐斗司

1.重要な合併症

頻度は少ないが、在宅医が知っておくべき重要な胃瘻の後期合併症は表1の4つであろう。

カテーテルの誤挿入は、在宅医療で最も注意すべき合併症である。胃瘻の瘻孔は意外に疎であり、特に初回の交換時は腹腔に迷入しやすい。通常、誤挿入があると栄養剤注入後に痛みを訴えるが、意識障害のある患者では見過ごされることがある。誤挿入に気付かずに栄養剤を注入すると、腹膜炎を発症し、重篤な合併症を引き起こす。瘻孔が不安定な初回交換時は、内視鏡などの確実な方法で胃内に留置されていることを確認する必要がある。その後のカテーテル交換時も、何らかの方法で胃内に留置されていることを確認することを習慣づけたい。交換前にインジゴカルミンなどの色素を注入し、交換後吸引する方法(コーヒー、青汁などを代用してもよい)で、胃内に留置されていることを確認できる。

バンパー埋没症候群は内固定板(バンパー)の圧迫により、胃壁に血流障害が発生し、壊死をおこし、内固定版が胃壁、腹壁内に埋没する合併症で、内視鏡ではSMT様隆起として観察される。ボタン型バンパー型を長期に留置している患者が、急な体重増加により腹壁が厚くなった時などに発生しやすい。訪問診療の度にカテーテルをくるくるまわし、内固定版が胃内にあること、内固定版と外固定版の間の長さに余裕のあることを確認する。バンパーが胃壁内に埋没すると、栄養剤の注入速度がしだいに遅くなり、胃壁内に注入された栄養剤が、栄養剤注入直後から瘻孔より漏れることで気付かれる。進行すると、しだいに注入に抵抗を感じるようになり、やがて完全に閉塞する。栄養剤が腹腔内に漏れると汎発性腹膜炎を発症し、重症となる。過度な肥満にならないように栄養管理を行うこと、ボタン型バンパー型の場合、常に瘻孔の長さを測定し、適したサイズを選択することが予防策として重要である。一旦バンパー埋没症候群が発生した場合は、カテーテルを摘出し、違う場所に再度胃瘻造設するのが基本であるが、ゾンデなどで小さい瘻孔が確認できれば、在宅でも内視鏡下で細径の胃瘻チューブを使って再造設ができる場合がある。

バルンの破裂によって事故抜去が起こり、発見が遅れた場合、再挿入ができなくなることがある。このような事故は、ボタン型バンパー型に変更することで予防可能である。事故抜去時は時間がたつと再挿入が困難となるので、事故抜去発見時に家族に再挿入する手技をあらかじめ指導しておくとよい。発見が遅れ完全に閉塞した場合は、胃瘻を再造設するしかない。

胃結腸瘻は、胃瘻造設時結腸を貫通して、胃内にカテーテルが留置され、気づかずに退院した場合に発生する。在宅での初回カテーテル交換時に、先端が結腸内留置となるため、栄養剤注入直後から激しい下痢をおこす。このような場合は、4-5倍にうすめたガストログラフィンを注入後、腹部レントゲンを撮影し、横行結腸が造影されるのを確認するか、瘻孔から内視鏡を挿入して横行結腸の内腔を確認する。カテーテル抜去のみで解決する場合と開腹手術が必要な場合があるが、いずれにしても入院治療が基本となる。予防はPEG造設時に指の圧迫などによって充分に位置を確認することにつきる。

≪表1 頻度は少ないが、基本的に入院治療が必要な重大な合併症≫
合併症 原因 予防 治療
カテーテルの誤挿入 瘻孔が斜め。カテーテル交換時に抵抗があっても無理に挿入。 1回目の交換時は内視鏡での確認。以後交換時も胃内容物の吸引を確認。 誤挿入後栄養剤を注入すれば、危険な状況となる(即入院)
バンパー埋没症候群 内固定板の圧迫により胃壁に血流障害、壊死が発生、胃内固定版が胃壁、腹壁内に埋没。 体重コントロール。胃瘻の瘻孔の長さの測定。適した長さのボタンを選択。 瘻孔が確認できる場合、細径の胃瘻チューブで再造設を行なう。困難な場合は胃瘻再造設
チューブ再挿入困難 バルン破裂などで事故抜去が発生し、発見が遅れた場合。 定期的な交換。家族に再挿入する手技を指導。事故抜去の少ないボタン型バンパー型に変える。 瘻孔から細径の胃瘻チューブを再挿入。完全閉塞は胃瘻再造設。
胃結腸瘻 胃瘻造設時結腸を貫通して胃内にカテーテルが留置され、気づかずに退院した場合の最初の交換時に発生。 PEG造設時に指の圧迫等によって充分に位置を確認。 初回交換時の胃内視鏡での確認。ガストログラフィンによる造影、あるいは内視鏡で確認。入院治療が原則。

2.在宅医療でしばしば見られる合併症

在宅医療で見られる胃瘻の後期合併症のうち、発生頻度が高く、在宅患者の生命予後を左右する合併症は、嘔吐・逆流と肺炎の問題である。逆流に対しては、まず滴下速度を遅くし、滴下終了後長く座位をとらせ、体動を制限したり、脂肪の少ない組成の栄養剤に変更する。薬剤では、エリスロマイシンの少量投与や六君子湯の食前投与を試みる。これらの方法でも逆流が持続する場合は、教科書的にはPEJの適応とされているが、長時間の栄養は日常生活そのものを妨げ、在宅医療には向いていない。在宅医療では、このような重度の逆流に対しては栄養剤の固形化が推奨される。逆流による肺炎が持続し、常に意識が低下している患者が、固形化によって炎症反応や栄養状態、意識レベルが改善することをしばしば経験する。現在、固形化の最大の問題は、ショートステイや施設入所時の受け入れである。今後、メーカーが固形化経腸栄養剤を開発することを期待している。

栄養剤のリークは比較的多い合併症の一つで、約1割に経験される。栄養剤のリークのうち、ボタン型の注入口から逆流する場合は、ボタン型の逆流防止弁の不具合を疑い、カテーテルの交換を行なう。栄養剤注入直後から漏れる場合、栄養剤注入時に抵抗があり、しだいに注入速度が遅くなる場合はバンパー埋没症候群が疑われる。しかし、栄養剤のリークのほとんどは、チューブの横からもれるタイプで、その原因は不明である。チューブ横からの漏れに対しては、チューブを太くしても効果はない。しばしば再度PEGを造設するように進められるが、2箇所以上に胃瘻を造設すると胃の蠕動運動が低下し、逆流を起こしやすいくなる可能性がある。チューブ型の場合は、体外固定版とバルンの距離を調節し、チューブが垂直になるようにして、体外固定版を皮膚に水平にテープで固定する。それでも改善しない場合は、チューブを一時抜去して、時間をおいて再び挿入する。これを漏れがなくなるまで繰り返す。この方法は一時的には効果があるが、再び瘻孔が拡大し栄養剤のリークが再発することが多い。リークに対しても栄養剤の固形化が最も有効な方法である。

胃瘻に合併する胃潰瘍はチューブ先端が胃壁に接触することにより発生する。胃瘻チューブからの出血で気付かれることが多い。胃瘻交換時に瘻孔から、内視鏡を挿入して観察すると、正面対側に潰瘍を認める。尿道バルンカテーテルを代用している場合など、バルンから先のチューブの突出が長い(5mm以上)カテーテルほど潰瘍形成が起こりやすい。通常のバルンタイプの胃瘻チューブでも潰瘍が発生する場合は扁平バルンに変更する。

チューブの閉塞には、チューブ内の細菌繁殖や投与薬剤も影響する。予防法としては、栄養剤注入後に微温湯でよくフラッシュすること、酸化マグネシウムなどつまりやすい薬剤もあるので、処方の変更も考慮する。閉塞の原因となる細菌の繁殖を防ぐため、栄養剤注入後に酢酸液(酢酸を10倍に薄めたもの)をカテーテルに充填する方法がある。酢酸液の充填は、酢酸液を通すだけでは不十分で、チューブ内を酢酸液で満たしておくことがポイントである。

胃内バンパーによる通過障害の頻度はそれほど多くないが、チューブ型のカテーテルを使用している場合、特に尿道バルンカテーテルなど外固定板がないチューブを代用している場合は注意が必要である。カテーテル先のバルンが幽門や十二指腸に嵌頓し、イレウス状態となり、嘔気嘔吐をきたす。糸やテープでカテーテルと外固定板を固定したり、外に出ているチューブの長さが常に一定になるように印をしておく。

瘻孔のスキントラブルは、在宅医療では最も経験する。この中には、①瘻孔周囲の皮膚炎、②瘻孔の不良肉芽形成、③創部感染、④外部固定板の圧迫による皮膚障害などがあるが、ほとんどのケースで表2にあるような基本的処置法で対応できる。

≪表2 在宅医療でしばしば見られる合併症≫
合併症 原因 対策
栄養剤リーク 胃瘻の老朽化? 交換時に時間をおいてから再挿入。体外固定版とバルンの距離をチューブが垂直になるように調節。栄養剤固形化。
ボタンの逆流弁異常 交換。
バンパー埋没症候群 表1参照
嘔吐回数の増加 不明 栄養の投与スピード↓、薬剤投与、PEJ,固形化
瘻孔周囲の皮膚炎 栄養剤リーク 漏れに対する対策(軟膏によるスキンケア)、リンデロンVG軟膏、クリーム使用。
瘻孔周囲の不良肉芽 チューブ摩擦の反応。感染 軽度:消毒、リンデロンVG軟膏,クリーム塗布。改善を見ない場合は硝酸銀で焼灼。外科的切除。
創部感染 創部消毒⇒内服抗生剤
外部固定板の圧迫による皮膚障害 圧迫が強い。外固定板が皮膚に斜めに接触。 外固定板の位置調整。
Yガーゼの使用
下痢 栄養剤による高浸透圧性の下痢 時間をかけて濃度を上げる。注入速度をゆっくりとする。止痢剤の使用。栄養剤の固形化。
胃潰瘍 突出部が長い 胃瘻専用カテーテルの使用。プロトンポンプインヒビターの使用。扁平バルンへの交換。
チューブ閉塞 老朽化。細菌繁殖や投与薬剤の影響。 栄養剤注入後に微温湯でよくフラッシュ。処方変更。酢酸液をカテーテルに充填。
胃内バンパーによる通過障害   胃瘻専用カテーテルやボタン型を使用。糸やテープでカテーテルと外固定板を固定。
≪囲み記事≫

《栄養剤の固形化》

蟹江らは「栄養剤の固形化」によって胃食道逆流(嘔吐)の減少,栄養剤リークの改善、下痢の防止が得られることを報告した。

栄養剤の固形化には通常寒天を用いる。ゼラチンは体温で液状となるが、寒天は40度前後で凝固し、いったん凝固したら80度まで溶解しない。つまり、室温で固形化し、一旦固まったら容易に凝固しない寒天は、栄養剤の固形化に適している。

通常、一回投与に必要な栄養剤と水分を混合したものを加熱し、水分200mlに対して寒天1gを目安として、粉末寒天(かんてんクックなど)をかき混ぜながら、溶かしていく。それを50mlのカテーテルチップ数本にわけ、吸引し、冷所に保存する。胃瘻チューブにカテーテルチップを接続し、固形化した栄養剤を胃内に押し出す。カテーテルチップの代わりに100円均一などで売っているドレッシングポットやポンプ式のシャンプー用の容器を代用する方法もある。

栄養剤の硬さは杏仁豆腐程度が適当である。全量注入したら最後にエアーでカテーテル内の固形化栄養剤をフラッシュする。固形化栄養剤はその作成保存が大変であるが、逆に注入は10分程度と短時間に行える。

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