「在宅」の時代

NIC Healthcare Partner  医療と介護のマネジメント情報誌

在宅専門でも経営は十分成り立つ
これから問われるのは地域連携

「供給が需要を生む」のが医療業界の特性

医療も産業である以上、病院や診療所など医療活動の拠点となる施設の経営を安定させなければ、質の良いサービスを提供し続けることができないのは言うまでもない。ただ、反対に質の良いサービスを提供したからといって必ずしも経営状態が向上するとは限らない。ここに産業としての医療のゆがみがある。

当法人の患者さんには、介護度が4から3へ、3から2へと改善する人が少なくない。マンパワーを充実させ、質の高い医療を提供する努力を重ねてきた結果だと白負しているが、ケアを手厚くすればもちろん経費はかさむ。しかし、だからといって患者さんからその分をいただくわけにはいかない。しかも、平均して介護度が下がれば収益が減る。患者さんの状態をよくすることが収益の減少につながるのが現実なのである。

保険診療を行う場合、各医療行為への対価が決められており、一般産業のように需要と供給のバランスによって価格が上下することがない。需要が増えると供給も充実し、価格が下がるのが産業界の常であるが、医療の世界ではこの変動は、診療報酬の改定によってのみ生じる。この意味で、医療経済は「半統制的経済」であるということができると思う。

医療には、「供給することによって需要が生まれる」という奇妙な面も見られる。飲食店などの場合、いくら作っても消費者が選ばない限り需要は生まれない。しかし、新しい病院や医療サービスは、必ず利用する人が出てくる。こうした特性も、医療産業全体の適正化、健全化を阻んできたのかもしれない。

医療費の高騰が叫ばれて久しい我が国では、厚生労働省はいかにして医療費を削減するか、医療の効率化をどう進めるかに頭を悩ませ続けている。国立病院の医師の採用枠の削減、病院のベッド数削減などは、医療費抑制策の代表的なものだが、これらは供給が需要を生むという医療産業の特殊性がからんでのことである。 「24時間連携体制加算」などの設定が追い風に

病院の一般病床数の当面の目標数値は、60万床とされている。単純に考えて、退院を余儀なくされた患者さんが急性期病院以外の居場所を探すことになる。私のおおざっぱな予想では、そのうち2割前後は、退院することで病状が改善されると思う。また、十分な医療を受けられなくなることによって死期の早まる人、介護老人福祉施設などの施設に入所する人が、それぞれやはり2割程度。在宅医療に移行する人は残り4割前後ではないかと考えている。

この患者さんたちを受け入れるために進められているのが在宅医療の整備であるともいえる。在宅医療を普及させるためには、多くの医師が在宅医療に取り組みやすくすることが不可欠である。そのため近年は、在宅医療に対する参療報酬がかなり厚くなってきている。

私が「Activities Supporting Medicine(活動を支える医療)」の実賎を目指し、小さな診療所を拠点に在宅医療に取り組み始めたのが1992年。初めは何をしても赤字になるような状態だった。しかし、在宅の患者さんに必要とされていると信じ、仲間とともに根気強く、質の良い在宅医療の提供に取り組んできた。

在宅患者さんの「24時間連携体制加算」などそれまでなかった診療報酬が設定され、在宅医療の対価が大幅にアップし始めたのは開業3年目の1994年くらいからだ。在宅医療の存在が社会的に認知されるにつれ、「在宅」を望む患者さんも増えてきた。それに対し、在宅医療専門、あるいは外来をもちつつ在宅にカを入れている医師は微増しているに過ぎない。私や仲間が行う在宅医療サービスの内容は、今でもほとんど変わらないが、経営的には天と地の差がある。現在は、在宅医療に取り組む診療所で地域との連携がきちんとできているところが赤字経営に陥ることはまずないといっても過言ではない状況だと思う。在宅医療だけで十分経営が成り立つ時代が、すでに来ているのである。

優先すべきは連携の体制づくり

在宅に取り組む医師の中には、在宅のみを行う人、外来を行いながらも在宅にカを入れる人のほか、外来中心で在宅も行う人、病院の在宅部門に勤務する人などがいる。私はこのうち、外来を行いながら在宅にカを入れる医師に属する。ただ私の場合、単純に外来と在宅だけでなく、介護老人保健潅設、訪問着護ステーション、各診療所などの複合施設の運営も手がけており、また近年は東京都内にも在宅医療を目的とした診療所を開設した。同じ在宅に取り組む医師の中でも、かなり幅広くサービスを提供していることになる。

診療所を開設してから約10年の間に、私がこのように施設を拡充し、組織を大きくしてきたのは、決してもともとそれを望んでいたからではない。地域の患者さんに必要とされるサービスを提供できる環境を整えてきた結果が、今の状態なのである。

在宅医療に取り組んでいると、患者さんとの信頼関係ができるにつれ、家族の健康管理もまかされるようになる。この場合、診療の必要があれば外来で行う。そのためにまず、従来から行っていた外来機能を残した。診療所があれば、在宅患者さんの状態がよくなり、通院できるようになったときの受け皿にも成り得る。

また、在宅医療が一般化される以前には、1人の患者さんを地域で診ていくような連携ができておらず、町の診療所の在宅医療を患者さんが利用しにくい状況にあった。その状況で在宅医療に取り組むためには、訪問着護ステーションをもち、よくなった患者さんを受け入れる施設を作るというように、組織を大きくせざるを得なかったのである。経営はなんとか順調に推移しているが、施設、組織の維持に大きなエネルギーを費やしているのも事実である。

現在では、患者さんが自らサービスを選ぶ傾向にある。また、組織同士の連携も以前より進んでいるので、これから在宅に取り組むのなら、ごく軽量の診療所を構え、いざというときに利用できる後方ベッドや高機能病院との連携を図るのが得策だと考えられる。高価な機器や設備を備えた施設は、その投資金額の回収に追われるが、軽量の謬療所なら、本当に必要な医療を行い、それに対する診療報酬だけで十分やっていけるはずだ。在宅専門診療所の開設資金としては、設備などで約1000万円、そこに人件費など半年分の運転資金1500万円を加えた2500万円が1つの目安になると思う。

どんな医師でも比較的在宅医療に取り組みやすくなった今、懸念されているのは、経験の浅い医師が経営の容易さから在宅医療を始めることである。これでは在宅医療の質の維持は難しい。在宅医療を行う上で制度の整備は1つの条件に過ぎない。即戦力となるほかの専門職、特に看護師を仲間にし、地域の各機関との連携体制を整えられなければ、在宅医療は成り立たない。経営的な問題よりもむしろ、こうした連携体制づくりの方がよほど重要で、医師の能力が問われる部分であることを忘れてはならない。

(医療法人アスムス理事長・太田秀樹)

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